迷宮の行き止まりには宝箱がある

雑記です。創作小説はpixivに置いています。

「老後の資金がありません」(著:垣谷美雨)感想

 こんな書名を見たら、つい読んじゃいますよねえ。「老後の資金がありません」
 実用書ではなく、小説です。読んだ人によって、どのくらい身につまされるかは変わるはずなので、その共感の度合いによって、本作への評価も変わりそうです。
 ターゲットの読者層は、たぶん、家計をやりくりして少しずつ貯金できたりできなかったりしている、40代以上の既婚者だと思います。私はとても共感して、満足して読み終わりました。

 文庫裏や帯に書かれているあらすじに基づいてご紹介すると、主人公は共働きの主婦で、子供二人の教育費をようやく払い終え、娘は結婚が決まったところです。なのですが、やりくりして老後のために貯めていたお金は、予定外に大きくなった結婚式やお葬式のために、物語序盤から容赦なく、みるみる減っていきます。
 この、お金が減っていく経緯が、また、いかにもありそうなリアルさなんですよ! 読みながら、なんだかもう涙が出るかと思うほど感情移入しちゃいました。リアル過ぎる本を読み始めてしまったかしらと思いつつ、だけど破滅の物語ではなく、前向きに生きる物語だと思うから、がんばれ主人公! と、応援しながら読み進めました。

 半分を過ぎたあたりで、物語の風向きが変わります。お金をめぐって人間の良いところも悪いところも見える喜劇的なドタバタを経て、どうにか立て直しの目途がついたところで、物語は終わります。いえ、終わるけれども、これからも悲喜こもごもは続いて行き、体当たりで道を切り開いていくのだろうな、という予感のある終わり方です。けして全てが解決したわけではありません。

(ちなみに、この本が出た当時は、この後半の展開で、詐欺などの犯罪を非現実的に感じる方も結構いらっしゃったみたいです。今は、主婦が給付金詐欺を働いてニュースになるご時世ですから、詐欺はリアルなものに感じられます。)

 本を閉じて自分の現実に帰って来ると、私が暮らす現実の主人公は、私です。
 誰の人生にも良い日も悪い日もある。知恵と勇気と絆を大切に生きていこう、と思いました。(私にとっては)良い読後感でした。面白かったです。