迷宮の行き止まりには宝箱がある

雑記です。創作小説はpixivに置いています。

もうすぐ文庫も出る「線は、僕を描く」(砥上 裕將)

 とても好きなお話です。図書館で単行本を借りて読みましたが、今月半ばに文庫が出るそうなので、買って手元に置こうかなと思っています。

印象的なタイトルのこと

 「線は、僕を描く」。このタイトルを初めて見たとき、私は「ん? なんだか気になる」と感じたのですが、ほかの方はどうだったでしょうか。
 何が気になったかというと、「描く」というからには絵に関するお話だろうと想像しつつ、色でも面でも形でもなく「線」に注目するとしたら、どのような絵を描くお話なのだろう、と思いました。デッサン? ドローイング? ペン画?

 それではと読んでみたら、答は……、おっと、その前に。
 まだこの小説を読んでいなくて、テーマすら事前には知りたくないという方は、この記事を読むのはここまででストップしてください。ストーリーはバラしませんが、主題や雰囲気の話はしようと思っています。いったんリンクを挟むので、知りたくない場合はここでお逃げください。

 さて。どんな絵をテーマにした小説だろうと思いながら読んでみたら、です。
 答は、水墨画でした。そうかー、水墨画か。この、微妙に気になる、好奇心を刺激する書名を考えた人は、言葉のセンスがあるなあ、と思いました。

 また、この物語の中には、水墨画で草を描こうとして引いた線の描き方で、描いた人の性格が読み取れるという豆知識(?)が出てきます。そういう意味も込められての「線は、僕を描く」というタイトルは、(本当に性格まで分かるのかなあと半信半疑ではありつつ)魅力的で深みのある、良いタイトルだと思います。

言葉のみによって表される美術

 言葉のみによって、ある絵がどのようであるかを認識し、その美しさに思いを馳せることができる。そういう小説を完成させるのは、言葉にも絵にも通じていなければ出来ないことだよなあ、と、感銘を受けながら読みました。文章を読んでいると、絵がまざまざと思い浮かぶような気持ちになるのです。

 途中で、ふと、「これに似た体験を、どこか別のところでしたことがある」と思い、少し考えて、思い出しました。恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」を読んだとき、小説という形で「音楽」を読んだように感じたのでした。「言葉のみによって音楽を表すことって、できるんだなあ」と感心したものです。

 同じように、「線は、僕を描く」を読んでいると、「言葉のみによって水墨画を楽しむ」ことができます。水墨画の知識など全く持たない、私みたいな読者でも、無理なく導かれて、「へえ、水墨画って、そういうものなんだ。興味深いね、素敵だね!」と思いながら、ぐいぐい読み進んで行けました。水墨画に対する興味もモクモク湧いてきます。

 そうそう、コミック化もされています。私はコミック版は未読ですが、評価は高いようですから、「小説は読まないけど、漫画なら」という方がいらしたら、コミック版を試してみるといいかもしれません。全4巻。

その他のこと

 そうして単行本で読んで、満足して物語を読み終わって、さらに後ろのページ(奥付とか)をめくっていたとき、「えっ」と思ったことが一つあります。何かというと、この小説は、「メフィスト賞」を受賞しているそうなんです(ちなみに、受賞時は別のタイトルだったようです)。

 メフィスト賞を獲っている小説って、たいてい、少しヘンテコなところがあって、そのヘンテコなところがイケてる物語が多いと思っているのですが、全部読んでいるわけでもないので、私の思い込みでしょうか……。いずれにせよ、「線は、僕を描く」からは、ヘンテコさは感じられませんでした。まっすぐで、調和のとれた物語だと思います。逆に、「メフィスト賞だから」という理由で読もうとするヘンテコ好きな方がいらしたら、期待と違ってしまわないかしらと、ちょっぴり心配になったので、ここに書きました。

 

 こんなところでしょうか。うまくご紹介できていればよいのですが。

 文庫本の発売予定は10月15日です。もうじきですから、文庫派はワクワクして待ちましょう♪