迷宮の行き止まりには宝箱がある

雑記です。創作小説はpixivに置いています。

ストーリーテリングが素晴らしいミステリ「償いの雪が降る」(アレン・エスケンス)

 賞を3つ受賞しているというミステリ小説「償いの雪が降る」(アレン・エスケンス)を読了しました。とても良かったです。

 主人公は、大学の課題で年長者の伝記を書かなければならず、介護施設を訪れて、余命僅かな殺人者にインタビューしますが、やがてその殺人事件の真相を追うことに……というストーリー。

 中心に据えられている「事件の真相」自体は、それほど複雑ではないので、ミステリを読み慣れた人なら半分くらい読んだところで大体見当がつきそうです。
 また、主要な登場人物はそれぞれ辛い過去を抱えており、読んでいるほうも胸が苦しくなるので、読み始めてからしばらくは、ミステリ小説の面白さよりも苦しさのほうが大きくなってしまうのでは、と心配もしました。
 ですが、後悔や苦悩を抱えながらも、みんな頑張って生きている、その明るさに救われて、主人公たちを応援しながら読み進めることができました。

 人物のひとりひとりが生き生きと描かれ、数々のエピソードがストーリーに奥行きと説得力を与え、文章のテンポも良く、とにかく物語としての構成と進行が素晴らしかったです。読後感もすがすがしい。

 思うに、何でもない顔をして日常を暮らしている人たちの誰もが、本当は、ひとには言えない心の傷のひとつやふたつ、胸の奥底に抱えて生きているのですよね。口に出さないから、はたから見て分からないだけで。
 そういう一人ひとりが協力して社会を作り、協力して問題解決に力を尽くしているのだから、お互いを尊重することを忘れないようにしないといけないですね。

 そういうわけで、おすすめできる優れた作品ですが、前述のとおり、読んでいて胸が苦しくなる場面があるのと、性暴力事件を取り扱うので、苦手なかたはご注意ください。

 主人公が大人になってからの続編も出ているらしいのですが、私はこの1作目がとても気に入ったので、しばらく続編のほうは読まなくていいや、という気持ちです。