高齢化社会が抱える問題を一気に解決すべく、あるとき、デキる首相が「七十歳死亡法案」を強引に通した……という、架空の日本が舞台です。
「七十歳死亡法案」とは、すなわち、日本人は70歳になったら安楽死せよ、という法案。ええっ、そんな無茶な。
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小説の中で、この法案が可決したのは2020年で、施行予定の2022年まであと2年あるけど世の中は大騒ぎ、という状況です。
現実には今が2022年ですから、いいタイミングで手に取ったというか、物語とのご縁を感じました。
読み始めてみると、描かれている悲喜劇があまりにも今の世相を反映しているので、10ページくらい読んだところで、「これ、いつ書かれた小説なんだろう」と気になって確認してしまいました。2012年、ちょうど10年前に発表された小説なのでした。
大筋としては、ある家族を中心に据えて、一人ひとりの立場と悩みを丁寧に描き出しています。介護する人、される人。離れて暮らす娘。引きこもりの息子。
細やかに心情が描かれるので、私たちが言葉にできずに抱えているモヤモヤを、作者さんが代わりに言葉にしてくれた、という気持ちにもなります。「そうそう、そうなのよ!」と、分かち合ってもらってる感じがして、励まされます。
そして、そうやって各々の悩みを描写しつつ、全体の雰囲気が重苦しくならないのは、この作者さんの良いところ。たぶんそれは、登場人物たちが皆、お互いに不満を抱えながらも、愛情や尊敬や感謝の気持ちもちゃんと持っている善良な人たちだからだと思います。この小説には悪人がいません。
物語の後半では、いろんな人が思い切ってアクションを起こすことで、全体が良い結末へと向かっていきます。現実世界では、こうトントン拍子にうまく行きはしませんが、明るい気持ちでこの物語を読み終わりつつ、「これは小説だから」と切り離すのでなく、この物語が届けてくれたメッセージのいくらかを、現実と向き合うときの助けにすることはできるはず、と思います。
私がこの小説から受け取ったメッセージは、大きく分けて2つ。
ひとつめは、「1人で悩まないで、相談しよう」ということ。
なぜって、一人きりで考えていても、思いつめたり、客観的な判断が下せなかったりして、自分で自分をがんじがらめにして抜け出せなくなることが多いから。
家族でも、友達でも、同僚でも、ともかく誰かに相談してみることで、新しい考え方が見えてくるんだよな、と思いました。
ふたつめは、「行き詰ったら、変化を起こそう」ということ。
「これ以上悪くはならない」状況に閉じ込められたら、もう、何でもいいから変えてみたらいいんだと思います。トライあるのみ!
と、そんな感じで、まとめてみると、この本は、いろんな人の悩みに寄り添ってくれるし、気づきをもたらしてくれるし、読後感も良いです。欠点は、しいて言うなら、男性の視点が弱いことくらい。
内容の面白さに比して、あまり話題にならなかったように思うんですけど、たまたま私が見逃していただけなのかなあ?
もしかしたら、文庫本の解説で言われているとおり、物語のタイトルや設定が高齢者には紹介しづらいものだったために、推薦されにくかったのかもしれません。
たまたま今回、手に取る機会があって、読めて良かったです。
軽快な運びで一気に読めて、面白かったです。