迷宮の行き止まりには宝箱がある

雑記です。創作小説はpixivに置いています。

「幸福は創造の敵」、それはそれとして「北の二人の姫君(01)」

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 大陸の北東に、小さく良く治められた国があり、その国の名をイルエンと言った。
 その地では、晴れた日に屋外に出れば、誰でもが、世界の果てのごとく連なる峻厳な山々を見ることができた。中でも、ひときわ厳かに高くそびえ立つ山は、古の時代にこの世界を造り給うた神が、民を守るために残して去ったと語り継がれる霊山だった。
 長い冬の間は真白な雪に閉ざされているその山肌は、一年のうち数日間だけ、うっすらと兎の模様が浮かんで見える日があって、春の訪れる兆しとなった。ゆえに、この地の占い師たちは毎年、冬の終わりが間近になると、自分こそが最も早く兎を見つけようと、日に何度も霊山を振り仰ぎ、運良く兎が見えたなら、その現れた形によって、その年の吉凶を判じるのだった。

 だが、ある年の冬、かの霊山は凶事に見舞われ、春告げの兎を示すことができなかった。気高き白き嶺を、禍々しい黒い雲が渦を巻いて取り囲み、誰がどう見ても凶としか判じえないその暗雲に包まれて、一体どのような昏い術を用いたのだろうか、悪しき魔女が棲みついたのだった。
 神聖なる山を、昼も夜も、どす黒い雲が取り巻いて、ゆっくりと渦を巻いている……。その様は、イルエンの民を怯えさせた。しかも、雲は時折、モクモクと形を変え、邪悪な老婆の顔をかたどって、にったりと笑った。
 黒雲に浮かぶ老婆の顔が、頬をすぼめてフウッと息を吐く仕草をすると、民は震えあがって家の中に逃げ込んだ。それでも最初のうちは、「あんなもの、怖くなぞない」と戸外にとどまる者たちがいたが、日が経つにつれて魔女の顔はますます巨大で凶悪なものとなり、ついに、その息吹は肌身に感じられるほどとなって、これを浴びた者は体の一部が石と化すようになった。
 ここに至って、民の
恐怖は火のように燃え広がることとなった。

 連日、助けを求める声が王城に寄せられた。また、この危機に一致団結して当たるべく、国で最も力のある、善き魔法使いと、月の力を操る聖者と、太陽の力を操る聖者とが集められた。これら優れた者たちは、王のもとで、いかにして魔女に対抗すべきかを繰り返し話し合った。
 最初の討伐隊は、行ったまま帰らなかった。だが、二番目の討伐隊は、戦いよりも情報を持ち帰ることを重んじた結果、半分ほどが生還した。
「魔女は、石の魔法の他にも、炎の魔法と、雷の魔法を使います。なんと恐ろしい威力だったことか! 退却する我らに、魔女は陛下への伝言を寄越しました」
と、帰還した隊を率いていた者は申し述べた。

 

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 はい、ここまで。

 って、何が?

 まず、今日の記事タイトルにある「幸福は創造の敵」というのは、最近話題になった「映画大好きポンポさん」からの引用です。この言葉、創作に携わる人が耳にした場合、(その創作が字でも絵でも音楽でも何でも)結構な割合で、「!」と思い当たる節があるのではないでしょうか。
 または、クリエイトする側でなく、「贔屓のクリエイターさんがいる」という観点からでも。貧しく恵まれない時代に創られた作品と、ヒット作が出て有名になってから創られた作品とで、何かが異なっていることを寂しく思うことが、あったり、なかったり……。

 いえ、今回の記事は、これを深く考察しようという趣旨ではありません。ポンポさんのことも、それほどよく知らないですし。
 ただ、3年くらい自創作を更新していない私も、この「幸福は創造の敵」というフレーズを聞いたときに、少し、思うところがありました。そして、「じゃあ、私が自創作の続きを書くのはいつになるだろう?」などと、他人事のように遠く思っていたら、特段何がきっかけということもなく、書き出しの1000字ほどが、なぜか今、書けたのでした。続きはまた、いつになるか分かりません。

 そのような次第で、今日の記事の前半、ネイビーの文字で書いた部分は、旧ブログでシリーズ99作目として執筆しようとしていた「北の二人の姫君」の導入部です。最後まで書けたらpixivにアップしますが、まだ先になりそうなので、迷った末に、一旦ここに置きました。
 シリーズ内での位置づけとしては、本編プロローグである「始まりの物語」の再話となります。プロローグとして書いたときとは違って、アイリーンとマデリーンと、彼女らを妻として連れ帰った若者たちのほうに焦点を合わせて語りなおす予定です。

 つまり、今日は、作者がシリーズの続きを諦めていないことをお伝えしたいと思いました。ただ、私自身が無理なく生きることのほうを優先するため、お待たせしてしまいますが、と。
 今日の続きの部分が書けましたら、またご案内いたします。そのときに再びご縁がありましたら、またお読みいただけたら嬉しい、と思います。

※ 「始まりの物語」のリンクも置いておきます。筋立てが気になっちゃった方や、新旧を比べたくなっちゃった方がいらしたら、どうぞ。

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