東京オリンピック2020の開催が危ぶまれている今日この頃、ふと、まだ読んでいない「オリンピックの身代金」を手に取る気持ちになりました。
オリンピックにまつわるミステリ小説であることは題名からわかるけど、どういうお話なのかしら、と。
読んでみると、ふむふむ、「1964年に東京オリンピックが開催されたとき、開会式に向けて着々と準備が進んでいたその裏で、実はこんな大事件があった」という設定のミステリなのですね。
骨太の構成でありながら読みやすい文章で、すぐに引き込まれて、先へ先へとページをめくる手が止まらなくなりました。
事件に関わる重要な登場人物3人の状況が、随時、場面を切り替えながら、各々進行していきます。昭和という時代がどのようであったのかが丁寧に描かれていて、シリアスな状況のときも重すぎず軽すぎず整然と進行していく様子は、まるで本当にあった事件のことを読んでいるかのよう。おそらく、当時を覚えている世代の方が読まれたら、またさらに違う感慨もあるだろうなと思いました。
読後の、「ああ、終わってしまった」という喪失感も、突き放されたように感じる一方、いかにも時代の終わりと始まりにふさわしい終わり方とも思います。
文庫本の上下巻を読み通して、大変満足しました。お気に入り度は余裕のAランク。ただのAではなく「A+」と言いたいくらい、ということは、つまりSランクということか。
なお、吉川英治文学賞を受賞している作品でもあります。そう言われてみれば、なるほどと思わせられます。
同じ奥田さんの「空中ブランコ」等とはテイストが異なるので、伊良部先生シリーズが合わなかった方にも、ぜひ読んでみていただきたいです。おすすめ。